この照らす日月の下は……
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「さて、これからどうするか、だな」
カナードはそう言いながら天井を見上げる。
自分一人であれば、さっさとこの艦を掌握してミナとギナに連絡を取っていただろう。その結果、艦内で生き残っていたのが自分一人になったとしても別段かまわないと思う。
あるいは、保護しなければいけないのがカガリだけならば同じ選択をしたはずだ。
だが、ここにはキラとその友人達もいる。
彼等を見捨てることはキラに嫌われると言うことと同義ではないか。そう考えればその選択肢は消える。
「いっそ、この艦を乗っ取るか?」
物理的にはあちらの方が多数だから難しいかもしれない。だが、キラが閉じ込められている部屋に籠城し、システムを掌握すれば十分可能だろう。
これ以上、自分たちの処遇が悪化するようならば実行に移してもいいかもしれない。カナードが心の中でそう考えたときだ。
「……なにか物騒なことを考えているな、お前」
頭の上から声が降ってくる。もっとも、相手が誰かわかっていたから反撃はしない。
「何のご用でしょうか、フラガ大尉?」
彼の方もわざと気配を消さなかったのだから当然かもしれない。そう思いつつこう聞き返す。
「ちょーっとお兄さんとお話をしないかな、って思ったんだよ」
「……おじさんの間違いではありませんか?」
こう口にしたのはもちろんイヤミだ。
「お兄さんだろう?」
「アラサーなのに?」
「……人が気にしていることを……」
ぐっと歯の間から押し出すように彼はを綴る。
「それで何のご用ですか?」
からかいすぎてもまずいだろう。そう考えて話題を変えた。
「あれのことだが……」
「乗りませんからね」
即座にそう言い返す。
「オーブを裏切るわけにはいきませんからね」
なんと言われようと、と続ける。
「しかしだなぁ」
こう言いながらも、ムウの指が膝をタップし始めた。それが何を意味しているのかわからないはずがない。
「俺はオーブの軍人であることに誇りを持っています。そして、オーブはあくまでも中立です」
そう言いながらもカナードもまた指の動きで別の意思を伝える。
「あの子達に危害を加えられるような状況にならない限り、俺自身は動くつもりはありません」
「……ならば、せめてOSの改良だけでも付き合ってくれないか?」
自分が動かせるように、とムウは食い下がってきた。
「無理ですね。そちらの方面に関しては、俺は門外漢です。門前の小僧程度の知識しかありません」
自分に合わせて改良するならばともかく、反射神経も反応速度も劣るナチュラルにあわせたOSを位置から組むのは不可能だ。
自分たちの中でそれが出来るとすればキラだけだろう。しかし、それを告げるつもりはない。
「……あの子達なら?」
「未成年の学生を強引に徴用するつもりですか? あきれますね」
それにとカナードは続ける。
「あの子達は確かに他の学校の生徒よりは技能は上です。それでもモルゲンレーテの技術者にはとうてい及ばない。そんな子ども達に作らせると十年はかかるでしょうね」
そんなに待てないだろう、と笑いながら続けた。
「あきらめてください」
そう言うと会話を終わらせる。
「……まぁ、それも当然だな」
別方面での話し合いも終わったからか。ムウもあっさりと引き下がった。
「それよりも、いい加減、キラを解放してくれませんか?」
民間人を閉じ込めるのは条約違反ではないのか。そう告げる。
「けが人だろう?」
「だからといってベッドに縛り付けておくのは本人のためになりません」
「わかってるんだがな。うるさいのがいるから。近いうちに解放できるよう努力はするがな」
それはきっと、あのバジルールとか言う士官の事だろう。
「……三日以内に解放してくれなければ、こちらもそれなりの対処をとりますよ」
とりあえずこう釘を刺しておく。
「お手柔らかにな」
それにムウは苦笑を浮かべるだけだった。